刃道・翁流SLDシリーズは、少し複雑な背景を持つラインナップです。優れた切れ味保持力、手入れのしやすさ、そして鋭い切り味を兼ね備えた優秀な素材を使用しており、この鍛造シリーズはヘビーデューティーな刃体を持ちながらも、非常に薄く研ぎ上げられています。美しさと野性味を併せ持ち、先重りの包丁を好む方に愛される逸品ですが、その正体を探るには少し掘り下げが必要でした。
厳密に言えばSLD鋼はステンレス鋼ではありません。クロム含有量はかなり高いものの、炭素量も多いためクロム炭化物が多く形成され、錆びにくさに寄与するクロムが減少します。しかし、SKDなどの他のセミステンレスとは異なり、SLDはほとんど変色やパティナが出ません。そのため、使用後にしっかり乾燥させれば手入れは非常に簡単で、切れ味が鈍っても炭素鋼のように鋭さをある程度維持する特性があります。
作りについて語るには、まず製作者を特定することが重要です。「刃道 翁流」と銘打たれていますが、これは堺で作られた包丁ではないと考えられます。「Ouru」や「Oul」は同じブランド「翁流」の表記揺れであり、「Oul Sakai(翁流 堺)」は、福井クラフト株式会社が2019年に自社アトリエ「刃道」を立ち上げる前に使っていた古いブランド名です。この包丁は、刃道特有のスーパーワイドベベルデザインではなく、鎬筋が低めに設定されており、峰から強いテーパーがかかり、刃体に厚みが残されているなど、全体的に三条の特徴が色濃く出ています。また、同様のSLD仕上げを持つ翁流の包丁の中に、忠房の「包丁工房」シリーズと全く同じ見慣れた柄が付いているものを見つけ、そこで全ての辻褄が合いました。これらの特徴から判断して、これらは翁流が忠房に製作委託した包丁であることはほぼ間違いありません。刃道の設立後もこれらの製品は引き継がれ、自社研ぎの刃道製品と区別するため、翁流の刻印入りで「刃道/翁流」の名の下に販売されています。
忠房の研ぎアプローチは刃道とは大きく異なり、切刃を厚めに残しつつ凸型(コンベックス)グラインドを組み合わせています。これは食材離れを重視した設計で、実際にジャガイモのスライスが刃に張り付くことはほとんどありません。包丁自体の厚みがあるため、硬くて緻密な根菜類などを切る際は多少の抵抗を感じますが、刃先の裏側は薄く仕上げられているため、多くの食材にスムーズに入り込み、包丁の自重を活かして抵抗なく切り進めることができます。
これは堺のブランドを冠しながらも、実質は非常に三条らしい包丁です。ずっしりとした安心感のある重みを好むユーザーに特におすすめします。手打ちならではの味わい、渋い梨地仕上げ、そして滑らかな手研ぎによる切れ味が融合し、個性豊かなラインナップに仕上がっています。プロフェッショナルや包丁愛好家にとって、その優れた切削性能は日々の仕事や趣味を大いに充実させてくれるでしょう。